量子コンピュータを用いてグリーン関数を効率よく計算するアルゴリズムを提案した論文(プレプリント)を公開しました。

株式会社QunaSys の遠藤(インターン)・倉田(インターン)・中川は、近い将来に実現される量子コンピュータであるNISQデバイスを用いて、分子や物質の性質の解析に重要な「グリーン関数」という物理量を効率的に計算する手法を提案した論文(プレプリント)を公開しました。

“Calculation of the Green's function on near-term quantum computers”

http://arxiv.org/abs/1909.12250

背景

NISQ (Noisy Intermidiate-Scale Quantum) デバイスという、誤り訂正機能のない量子ビットが数百個〜数千個程度集まった量子コンピュータが実現されつつあります。NISQデバイスの応用先として、分子や物質の性質(物性)の精確な計算が注目されており、特に、variational quantum eigensolver (VQE)というアルゴリズムを用いると分子や物質の最安定エネルギー・励起エネルギーを計算できることが知られています。

問題点

一方で、分子や物質の性質を量子力学に基づいて解析するには、エネルギー以外の情報も重要です。その中でも最も重要なのが「グリーン関数」という物理量で、グリーン関数を用いると分子や物質がどのような秩序を持っているかや、その外場に対する応答(例えば電気抵抗)を計算できます。グリーン関数は理論的な計算において普遍的で重要な役割を占めているにも関わらず、グリーン関数をNISQデバイス上で効率よく計算する手法は知られていませんでした。

方法・結果

株式会社QunaSys の遠藤(インターン)・倉田(インターン)・中川は、NISQデバイスを用いてグリーン関数を効率的に計算する2つの手法を提案しました。1つ目の手法では、NISQデバイス上で量子状態の時間発展を計算する既存のvariational quantum simulation アルゴリズムを拡張することで、グリーン関数を計算する量子回路が非常に単純化できることを示しました。2つ目の手法では、subspace-search VQE・multistate contracted VQEといった既存のNISQ向け量子アルゴリズムを活用し、グリーン関数のレーマン表示というものに基づいてグリーン関数を計算します。いずれの手法も、NISQデバイスでも実行可能だと期待できる浅い量子回路のみを用いています。さらに、物質中の電子を記述するハバードモデルというモデルに対して、高速な量子シミュレータQulacs を用いた数値シミュレーションを行い、グリーン関数が精度よく求められていることを確認しました。

展望

この結果により、古典コンピュータで計算することができなかったサイズの分子や物質のグリーン関数を、NISQデバイス上で計算できる可能性が示されました。これはNISQデバイスの物質解析への応用の幅を著しく広げるものと期待されます。