欧州レポート ユースケースその14: 量子AIで加速するワクチン設計
QunaSysは、欧州の量子ハブの一つであるコペンハーゲンにもオフィスを構え、海外での量子コンピュータ研究開発を推進しています。 当社もメンバーであるDanish Quantum Community(DQC)が発行するレポートに、量子コンピュータの16のユースケースとして紹介されています。 今回は14番目のユースケースを、抄訳、補足してお届けします。
新しいワクチンの開発には、免疫系に認識されやすい小さなタンパク質断片(ペプチド)を生成する必要があります。しかし従来の方法では、こうしたペプチドの発見に時間がかかり、重要な候補を見逃す可能性がありました。高度なAIを使っても十分な学習データを得るのは難しく、創薬のスピードと正確さの両立は常に課題となっています。
量子コンピュータで強化されるAI創薬
デンマーク工科大学(DTU)のティモシー・パトリック・ジェンキンス教授は、量子コンピュータを活用してAIによるペプチド探索を強化する研究を進めています。 特に「de novo生成」と呼ばれる、ゼロからペプチドを設計する手法に量子技術を導入することで、免疫系に認識されやすい候補を効率的に作り出すことが可能になります。
次世代ハードウェアによる飛躍
ORCA Computing社の量子システム「PT-1」を使ったシミュレーションでは、従来より速く、かつ免疫系に認識されやすいペプチドが生成されることが確認されました。 さらに2024年10月にリリースされた次世代機「PT-2」は、Sparrow Quantum社のフォトニックチップを搭載し、推定で4,000倍の性能向上が期待されています。 これにより、創薬研究における量子応用が現実に近づきつつあります。
このアプローチの優位性
- 発見の加速: 少ないデータでもAIと量子計算の組み合わせによりペプチド生成を高速化。
- 多様性の向上: 量子現象に由来する真の乱数によって、多様な候補ペプチドを生成。
- 拡張性: PT-2は既存の高性能計算基盤と容易に統合可能で、実用化に向けた道を拓く。
実証から実用化へのロードマップ
この共同研究は、デンマーク工科大学、ORCA Computing、Sparrow Quantumによるものです。AIと量子ハードウェアを融合することで、より迅速で効果的な治療法の発見が可能となり、世界的な医療成果の変革につながると期待されています。 市場投入の目安は研究用途で2~3年とされており、医薬品開発の現場に大きなインパクトを与える可能性を秘めています。
もたらされる価値と広がる可能性
ワクチンや新規治療薬の開発スピードが大幅に向上すれば、感染症や難治性疾患への対応も迅速化されます。 量子AIによる創薬加速は、製薬・バイオテクノロジー分野にとどまらず、化学・材料科学など他の産業分野にも波及効果をもたらすと考えられます。
もっと詳しく知りたい方へ
本レポートは16 Danish Quantum Use Casesで原著を読むことができます。 Qunasysでも量子創薬・量子AIの応用動向をモニタリングしております。 より詳しい情報について、気軽にお問い合わせください。