欧州レポート ユースケースその2: 量子化学と量子コンピューティングに基づく化合物設計
QunaSysは、欧州の量子ハブの一つであるコペンハーゲンにもオフィスを構え、海外での量子コンピュータ研究開発を推進しています。 当社もメンバーであるDanish Quantum Community(DQC)が発行するレポートに、量子コンピュータの16のユースケースとして紹介されています。 今回は2つ目のユースケースを、抄訳してお届けします。
化合物開発のための熱力学および反応性分子・材料シミュレーション
製剤やプロセスにおける溶媒和や反応をシミュレーションする能力は、バイオ医薬品、化学、材料産業において新製品を設計する際に極めて重要です。 最適な製剤処方や製造プロセスを確立するためには、徹底した計算評価が不可欠です。
MQS(Molecular Quantum Solutions)という会社は、最先端の量子化学および量子コンピューティングエンジンを開発しており、すでに実験的な研究開発期間を少なくとも90%以上削減する効果を実証しています。 MQSは、自社のソフトウェアプラットフォームを、医薬品、化学、触媒、材料製造分野において、国際的な企業および大学との協力の下で展開しています。
課題
新しい化学化合物構造を創出する場合、考えられる可能性空間は非常に広大であり、実験室での実験のみで評価することは困難です。また、高度な量子化学計算と機械学習(ML/AI)モデルを組み合わせて行う場合、 現状の最高性能を持つ古典コンピュータでさえも計算能力の限界に達してしまいます。 この古典的な計算のボトルネックを解消するため、現在は量子コンピュータとスーパーコンピュータの統合が進められています。
医薬品およびライフサイエンス向け量子化学シミュレーションモデルの開発
MQSは量子化学シミュレーションモデルの開発に注力し、これを製剤開発およびプロセス設計の分野で、医薬品、ライフサイエンス、化学・材料産業におけるさまざまなユースケースに応用しています。 MQSは、量子化学と機械学習(ML/AI)モデルを組み合わせた独自の量子化学エンジン「Cebule」を開発しました。 このエンジンにより、例えば溶解性や粘度など特定の目標を維持しながら、有効成分を様々な溶媒中で混合するという困難な問題(製剤開発)を解決することができます。
MQSのCebuleエンジンを構成する個別の要素は以下の通りです:
- Quantum Generative Adversarial Networks(QGANs) 機械学習(ML/AI)と量子コンピューティング技術を活用
- 量子コンピュータを用いた量子化学計算 より具体的には、量子化学と量子コンピューティング技術を利用した、暗黙的溶媒和、分子動力学、反応ネットワーク等の計算
- 量子グラフニューラルネットワーク(QGNNs)ML/AIと量子コンピューティング技術を統合した手法
商業的な可能性
MQSはすでに「Cebule」を複数のケースで実証している。例としては、ヘンケル(界面活性剤の配合)、Ciech(農薬製剤の開発)、ドイツ航空宇宙センター(DLR)(水のシミュレーション)などがあります。
化合物開発に関しては、MQSは(バイオ)医薬品、農業化学、化粧品業界での実績を積み重ねています。これまでに実施された幅広いプロジェクトから、MQSが産業レベルの製品を構築しており、 「Cebule」が多岐にわたる産業分野で応用されていることが明らかです。さらに「Cebule」は、研究開発(R&D)にかかる時間とコストを少なくとも90%以上削減できることを実証しています。 MQSは研究論文を通じて量子コンピューティング手法の有効性を確認しており、「Cebule」は欧州に設置された、コスト効率に優れたCPU-GPU-QPUインフラの上で継続的に改善されています。
もっと詳しく知りたい方へ
本レポートは16 Danish QuantumUse Casesで原著を読むことができます。 Qunasys でも、量子コンピュータとAIのハイブリッドアプローチの知見を豊富に持っています。QGANsや、QGNNsの提案事例もございます。お気軽にお問い合わせください。