Case: 村田製作所

データと理論で現場を支える。村田製作所・信頼性技術センタが挑む品質保証と数理モデリングの融合

導入

製品は複雑化する一方で、開発スピードの加速が求められる昨今。品質保証や信頼性評価の現場では、「膨大なデータをどう解釈し、的確な判断を下すか」という課題に直面しています。網羅的なアプローチが通用しなくなる中、現場を動かし、最適解を導き出すために必要なものとは何でしょうか。

今回は、株式会社村田製作所の信頼性技術センタで品質保証技術の最前線に立つ片山様、下田様に、現場目線での数理モデリングへの期待と、次世代への技術継承について伺いました。

課題認識:情報爆発とスピードのジレンマ。マンパワーに頼る評価の限界。

高椋(QunaSys):本日はよろしくお願いします。まずは、お二人の所属チームと普段の業務について教えていただけますか。

下田 様(村田製作所):当社は創業以来、品質保証活動に対して、「良い機器は良い電子部品から、良い電子部品は良い材料から」、「まちがいのない品質も納期も科学的管理を実践していれば守れる」という創業者の言葉を大切にしてきました。この考えの内、「科学的管理」という言葉は社是としても大切にしています。品質基本方針として、問題に対しては物事の源流(根幹)まで要因を掘り下げ、本質原因を明らかにすることを重視しています。信頼性技術センタは全社の信頼性に関する基盤技術を作り、現場をサポートする役割を担っています。

片山 様(村田製作所):信頼性技術センタは、故障解析技術、信頼性技術、そして校正技術という3つの柱で構成されています。私たちは弊社製品の特性の保証や信頼性を高めるための研究開発を担う部門になります。

高椋:弊社とともに品質保証の現場で起きている課題に対して、数理モデリングを適用するプロジェクトに取り組ませていただきました。当初は、どのようなところに問題意識や課題意識があったのでしょうか?

片山 様:市場環境の多様化により、扱う現象自体が非常に複雑になっています。多数の因子が複雑に絡み合って品質に影響をおよぼすため、メカニズムの確かな理解が必要不可欠です。

下田 様:昨今はツールの発達で情報量が飛躍的に増え、データはいくらでも取れるようになりました。しかし逆に「情報が多すぎて人の解釈、判断が追い付かない」という問題が生じています。現象を丁寧に観察し考察することを大切にしてきましたが、ビジネススピードが上がる中で、より効率的に理解を深めることが必要になっています。

高椋:情報が増えたからといって、そのまま研究開発や課題解決のスピードが上がるわけではないのですね。

下田 様:これまでは技術者が粘り強く実験を積み重ねながら、仮説や理論を検証し、故障発生条件を見極めて安全な設計・管理条件を設定してきました。ただ、扱う現象や因子が複雑になるにつれて、検証に必要な条件の組み合わせも増え、難易度が上がってきています。そこで、因子がどのように影響しているのかを数理モデルであらかじめ予想し、どのあたりに境界がありそうかを見通した上で、重要な条件を実験で確認していきたいと考えています。そうすることで、安全性の判断は実験でしっかり担保しながら、検証に必要な実験をより効率的に進められるのではないかと思っています。

現場の判断を支える共通言語としての「数理モデリング」

高椋:現場と新しい方針や評価基準を検討していく際、データの物量で示す場合と、理論で示す場合とで、説得力に違いはありますか?

片山 様:数理モデルなどを用いた方が理論で理解でき、かつ定量的に示せるため、現実のデータと組み合わせることで納得感や安心感は上がると思っています。原理を明確にして一本、筋を引くことで、全体の開発・業務スピードの向上が期待できます。

下田 様:我々は、積み重ねてきた実験による経験知やそれによる課題解決力は高いレベルにあります。一方で、課題解決をするためには労力を惜しまないといったアプローチが必要な側面もあります。そこで、原理原則に基づいた理論式と現象の描像を示すことで、次の方針について現場と理解を共有し、議論を重ねながら現場の開発・業務スピードの効率の向上に繋げていきたいと思っています。

高椋:実験数を減らすこと以外に、現場目線で数理モデリングが最も効く使い方はどのあたりだとお考えですか?

下田 様:実際の実験では、事前に仮説を立てていても、その現象がはっきり現れる条件が必ずしも分かっているわけではありません。そのため、設定した条件では見たい現象が十分に表れず、試行錯誤に時間がかかってしまうこともあります。実験を行う前の段階で、数理モデルにより「この条件の範囲であれば、この値くらいで、この現象が現れそうだ」といった見通しが持てると、検証すべき条件を絞り込むことができ、検証の精度を保ったまま効率的に実験を進められると考えています。

片山 様:事前段階での因子整理にも有用です。例えば他部門と話し合う際、事前に因子を整理できていればコミュニケーションが取りやすくなると考えます。そうした合意形成の場での、ツールになると考えています。

属人化からの脱却。広範囲の知見をAIでカバーし、仮説検証サイクルを速く回す

高椋:最後に、今後の組織課題や弊社開発のPhysiLenzに対する期待をお聞かせください。

下田 様:これまでは、特定の現象、製品に深い知見を持つ専門家の知識経験に支えられて試行錯誤を重ねてきました。今後はそういった専門家の知識技術の伝承が課題と考えています。労働環境が変化し、業務内容も膨大になり細分化される中、若手育成をより効果的に進めるためにも、世の中にある一般的で広範な知見の収集や整理についてはAIを活用し、専門家の知識技術伝承を補完していくことが有効だと考えています。

片山 様:膨大な情報があふれる中、論文などを横断的に調べるのは多大な時間がかかり、どうしても個人のスキルによる差が出てしまいます。今回ご提案頂いたPhysiLenzの強みは、こうした広範囲の知見を網羅的にカバーしながら、情報を整理し、出力品質を担保してくれる点にあると感じています。AIを活用して一般的な知見を集約し、現象を引き起こす因子の整理から、仮説構築、数理モデリングによる検証のサイクルをくるくると速く回すことで、時間短縮や業務の属人化防止に期待しています。

下田 様:信頼性評価・故障解析の業務は「本当にそうかな?」という仮説検証の繰り返しです。QunaSysさんの仮説検証プロセスの高速化を重要視するアプローチに強く共感しましたし、このツールがもたらす未来に期待しています。

まとめ

複雑化する製品故障要因とビジネススピードの加速が続く品質保証・信頼性評価の現場では、「膨大なデータを前に、経験知と試行錯誤だけでは対応しきれない」というジレンマに直面していらっしゃるとのことでした。

この課題を乗り越え、現場を支える最適解を導き出す鍵として、数理モデリングによる現象メカニズムの理解が浮き彫りになりました。原理原則に基づいた理論式と現象の描像を示すことは、現場への説得力を高め、これまで網羅的に行っていた実験の数を的確に絞り込むことに繋がると期待されています。さらに、熟練した専門家の引退に伴う技術継承の課題に対しても、AIを用いて広範囲の知見をカバーし、現象を引き起こす因子の整理から、仮説構築、数理モデリングによる検証のサイクルを高速化するアプローチが不可欠になってきています。

QunaSysは、数理モデリングをベースとした研究開発プロセスの構築支援を通じて、お客様の研究開発や品質保証における複雑な現象のメカニズム解明に貢献してまいります。

  • 「自社で発生している複雑現象により起きる不具合の因子を整理したい」
  • 「膨大な実験データを前に、次に打つべき的確な一手(仮説)を見出したい」
  • 「経験則や属人化から脱却し、原理原則に基づいた品質評価の仕組みを構築したい」

上記のような課題をお持ちのリーダー・ご担当者様は、ぜひお気軽にQunaSysまでご相談ください

対談者プロフィール

話し手:片山 様、下田 様(株式会社村田製作所 信頼性技術センタ):
社内の多様な製品の未来の信頼性技術の研究開発に従事。

聞き手:高椋 章太(株式会社QunaSys Research Solution部 部長 博士(工学)):
企業の研究開発における理論活用・モデリング支援を推進。本プロジェクトにおいてモデル構築・理論支援をリード。

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2026/04/20

Category: 共同研究
Category: 共同研究
Year: 2026