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量子コンピュータを用いた量子化学計算を効率化するアルゴリズムの提案論文 (プレプリント) を公開しました。

株式会社 Qunasys 顧問の水上特任准教授 (阪大QIQB) を筆頭著者として、株式会社 Qunasys の御手洗・中川・山本・楊、また JSR 株式会社の大西裕也(マテリアルズ・インフォマティクス推進室次長)が、量子コンピュータを用いた量子化学計算を効率化するアルゴリズム、軌道最適化ユニタリー結合クラスター (orbital optimized unitary coupled cluster, OO-UCC) 法を提案しました。

株式会社 Qunasys と JSR 株式会社の共同研究成果です。
arxiv: 1910.11526

追記:2020年9月16日付けで、Physical Review Research誌に掲載されました。
Orbital optimized unitary coupled cluster theory for quantum computer
https://journals.aps.org/prresearch/abstract/10.1103/PhysRevResearch.2.033421

背景

計算中のノイズが無視できないが、古典コンピュータではシミュレーションの難しい量子コンピュータである NISQ (noisy intermediate scale quantum) デバイスが、近年注目を集めています。NISQ デバイスの応用先としてよくあげられるのが、分子のような量子系のエネルギーと安定状態を計算する VQE (variational quantum eigensolver) アルゴリズムです。VQEは、適当な量子回路を用いてNISQデバイス上に作った量子状態が、できるだけ安定状態を近似するように、逐次的に量子回路を調整していくことでこの問題を解きます。古典コンピュータでシミュレーションができないような量子回路を用いて VQE を行うことにより、これまでよりも広範囲の物質の物性を明らかにできるのではないかと期待されています。

問題点

NISQ デバイスはノイズに弱いため、実行する量子回路を可能な限り短く、すなわち実行する量子ゲート数をできるだけ少なくする必要があります。VQE を実行するための量子回路としてこれまで様々なものが提案されてきましたが、まだまだ改善する余地が残されています。

方法

量子回路には、古典コンピュータでシミュレーションすることが難しいと考えられている種類のものと、逆に古典コンピュータでもシミュレーションが簡単であると知られている種類のものがあります。比較的単純な量子回路によって生成されるユニタリー結合クラスター (unitary coupled cluster, UCC) 状態と呼ばれる量子状態は、古典コンピュータでシミュレーションすることが難しいとされるものの一つです。その量子回路を短くする方策として、古典コンピュータでシミュレーションできる回路は古典コンピュータでシミュレーションしてしまい、NISQ デバイスが本当に必要な部分のみを NISQ デバイス上で実行することが考えられます。そこで本研究では UCC 状態の生成に含まれている軌道回転による量子状態の変換が、古典コンピュータで簡単に行える操作であることに着目し、その部分を古典コンピュータへ任せる手法、軌道最適化ユニタリー結合クラスター (orbital optimized unitary coupled cluster, OO-UCC) を提案、また検証のための数値シミュレーションを行いました。

結果

窒素分子・水分子について計算を行い、同じ基底関数の範囲では、従来の量子化学計算手法である結合クラスター (coupled cluster, CC) 法よりも厳密解に近い結果が得られました。また、軌道回転を分離しない UCC 法と比べても遜色のない結果が得られました。このうち水分子については構造最適化も行いました。数値シミュレーションではありますが、これは VQE の枠組みで多原子分子の構造最適化を行った初めての結果です。

展望

UCC 状態を生成する量子回路は大量の量子ゲートを必要とするため、誤り耐性を持った量子コンピュータならば実行可能ですが、NISQ デバイス上で実行するとなると不安が残ります。本研究によって量子回路を少し短くすることはできましたが、量子化学における量子コンピュータの優位性を示すためには、さらなる発展が不可欠です。そこで将来展望として、NISQ デバイス上で実行しやすい量子回路、例えば Google が量子超越性を示すために使用した量子回路と、本研究で利用した古典コンピュータ上での軌道回転を組み合わせるなどといったことが考えられます。

2019/10/31

Category: Research
Category: Research
Year: 2019